Section 4:コーチングの「型」を知る

コーチングでは、クライアントとの対話を通じて、目標達成や成長を支援していきます。
その対話を進めるうえで役立つのが、コーチングの「型」となるモデルです。型を知っておくと、セッションの流れを整理しやすくなります。目標、現状、選択肢、行動計画を順番に扱えるため、対話の方向性を見失いにくくなります。
ただし、型はあくまで対話を支えるための枠組みです。本章では、基本的なコーチングモデルであるGROWモデルを中心に、その他のモデルや理論的背景について整理します。

4.1 基本の型:GROWモデル
GROWモデルは、目標設定や問題解決に役立つ、基本的で広く使われているコーチングのフレームワークです。
1980年代後半から1990年代にかけてイギリスで広まったモデルとされています。クライアント自身が答えを見つけ出すことを支援する点に特徴があります。
GROWモデルは、次の4つのステップで進めます。

ステップ | 意味 | 主な内容 |
G | Goal:目標設定 | 目指す状態や、このセッションで得たいことを明確にする |
R | Reality:現状把握 | 現在の状況、課題、目標とのギャップを整理する |
O | Options:選択肢の洗い出し | 可能な行動や方法を広げる |
W | Will / Way Forward:意思確認・行動計画 | 実行する行動を決め、前進の道筋を明確にする |
G:Goal|目標設定
Goalでは、このセッションで何を得たいのか、長期的にはどのような状態を目指したいのかを明確にします。
目標は、コーチが決めるものではありません。クライアント自身が決めることが大切です。
特に、クライアントが心から「やりたい」と思える目標を見つけることは、行動への意欲を高めるうえで重要です。
質問例としては、次のようなものがあります。
・今日のセッションで何を持ち帰りたいですか。 ・理想の状態はどのような感じですか。 ・なぜそれがあなたにとって大切なのですか。
R:Reality|現状把握
Realityでは、目標に対して、現在どのような状況にあるのかを客観的に整理します。
これまでに何をしてきたのか、どのような課題があるのか、何が目標達成を妨げているのかを確認します。
この段階では、目標と現状のギャップを明らかにすることが大切です。
質問例としては、次のようなものがあります。
・今、どのような状況ですか。 ・これまで何を試しましたか。 ・何が目標達成を妨げていますか。
O:Options|選択肢の洗い出し
Optionsでは、目標と現状のギャップを埋めるために、どのような行動やアイデアが考えられるかを洗い出します。
この段階では、「できる・できない」「良い・悪い」をすぐに判断せず、まずは自由にアイデアを出していきます。
選択肢を広げることで、クライアントはこれまで気づいていなかった可能性や方法を見つけやすくなります。
質問例としては、次のようなものがあります。
・どのようなことができますか。 ・もし何の制約もなかったら、何をしますか。 ・他にはどのような方法がありますか。
W:Will / Way Forward|意思確認・行動計画
Will / Way Forwardでは、洗い出した選択肢の中から、具体的に何を実行するのかを決めます。
「何を」「いつまでに」「どのように」行うのかを明確にし、必要なサポートや実行への意欲も確認します。
ここでは、クライアントが自分で決めた行動へ進めるように支援することが大切です。
質問例としては、次のようなものがあります。
・具体的に何から始めますか。 ・いつまでに実行しますか。 ・それをやり遂げる気持ちは、10段階で言うとどれくらいですか。
GROWモデルは、ビジネスでの部下育成、教育、個人の目標達成など、さまざまな場面で活用できます。
特にコーチングを学び始めた人にとって、セッションの流れを理解するための基本的な型になります。
GROWモデルの発展形:GRROOWWモデル
GROWモデルを発展させたものとして、GRROOWWモデルがあります。
GRROOWWモデルでは、現状把握であるRealityの後に、クライアントが持っている強みやリソースを探るステップが独立して設けられています。
ここでいうリソースとは、才能、知識、人脈、経験、支援者など、クライアントがすでに持っている資源のことです。
このステップを加えることで、クライアントは「足りないもの」だけではなく、「すでに持っているもの」にも目を向けやすくなります。
【実践ポイント】GROWモデルを使ううえでの注意点
GROWモデルは便利な型ですが、機械的に使えばよいというものではありません。実際のセッションでは、クライアントの話の流れや反応に合わせて、柔軟に扱うことが大切です。
注意点 | 内容 |
段階的に進めるが、柔軟に扱う | 基本はG→R→O→Wの順に進めますが、対話の流れによって行き来することもあります。 |
クライアント主体で進める | あくまでクライアント自身が考え、決めることを尊重します。 |
信頼関係を大切にする | オープンに話せる信頼関係がなければ、モデルは十分に機能しません。 |
継続的に活用する | 一度だけでなく、継続して使うことで効果が高まりやすくなります。 |
型にとらわれすぎない | GROWモデルは便利な地図ですが、実際のセッションはクライアントとのライブな対話です。 |
GROWモデルは、特にコーチングを学び始めた人にとって、セッションの進め方を理解するために役立ちます。
しかし、経験を積んだコーチは、このモデルの考え方を柔軟に取り入れながら、クライアント中心の自然な対話を進めます。

GROWモデルを基本の型として学びつつ、実際のセッションではクライアントに合わせて臨機応変に対応することが大切です。
4.2 その他のコーチングモデルとアプローチ

GROWモデル以外にも、さまざまな考え方やテクニックに基づいたコーチングモデルがあります。
それぞれのモデルには特徴があり、扱うテーマやクライアントの状況によって、重視する視点が異なります。
コーアクティブ・コーチング
コーアクティブ・コーチングは、コーチとクライアントが「共に積極的に行動する」対等なパートナーであることを重視するアプローチです。
このアプローチでは、仕事、人間関係、健康など、クライアントの人生全体のバランスや充足感に焦点を当てます。
また、クライアントはもともと創造力と才知にあふれ、欠けるところのない存在であるという考え方を大切にします。
未来の可能性や、クライアント自身の変容を重視する点も特徴です。
NLPコーチング
NLPコーチングは、NLP、つまり神経言語プログラミングの考え方を活用するアプローチです。
目標達成や自己成長のために、思考や行動のパターンに働きかけることを重視します。
特定の質問の流れやワークを用いることもあり、信念を変えるワークなどが活用される場合もあります。
認知科学に基づくコーチング
認知科学に基づくコーチングは、脳の働きや認知の仕組みに関する知見を活かして、クライアントの変化を促すアプローチです。
アファメーションや、考え方そのものを変えることに焦点を当てる場合があります。
クライアントがどのように世界を認識し、どのように自分自身を捉えているのかに注目する点が特徴です。
ストレングス・ベースド・コーチング
ストレングス・ベースド・コーチングでは、クライアントが持つ強みや才能に注目し、それを日々の行動や成果につなげていきます。
強みを活かすことで、やる気や成果の向上につながると考えます。
ストレングスファインダーなどのツールを用いる場合もあります。
オントロジカル・コーチング
オントロジカル・コーチングは、クライアントの「あり方」に注目するアプローチです。
ここでいう「あり方」とは、言葉の使い方、感情、身体の状態などを含みます。
これらが、クライアントの物事の見方や行動にどのような影響を与えているのかを探っていきます。
インナーゲーム・コーチング
インナーゲーム・コーチングは、パフォーマンスを発揮するうえで妨げとなる、自分自身の内側にある障害に焦点を当てるアプローチです。
不安や思い込みなど、内側の妨げを乗り越えることを支援します。
インテグラル・コーチング
インテグラル・コーチングは、クライアントの経験を多角的に捉える包括的なアプローチです。
個人的な側面だけでなく、人間関係、文化、組織など、複数の視点からクライアントを理解しようとします。
ソリューション・フォーカス・アプローチ
ソリューション・フォーカス・アプローチでは、問題の原因を深く掘り下げるよりも、すでにうまくいっていることや活用できる強みに目を向けます。
できていることを見つけ、それを広げていくことを重視します。
ポジティブ心理学コーチング
ポジティブ心理学コーチングは、ポジティブ心理学の考え方を応用したアプローチです。
幸福感、強み、より良く生きること、パフォーマンス向上などに焦点を当てます。
4.3 コーチングを支える考え方

コーチングは、ひとつの学問分野だけで成り立っているものではありません。
心理学、学習理論、目標設定、組織や関係性に関する理論など、さまざまな分野の考え方から影響を受けています。
これらの背景を理解しておくことで、コーチングをより深く理解し、状況に合わせて効果的に実践しやすくなります。
人間性心理学
人間性心理学は、コーチングに大きな影響を与えている考え方の一つです。
特にカール・ロジャーズのクライアント中心療法の考え方は、コーチングにおける信頼関係や成長支援の土台と深く関係しています。
ロジャーズの考え方では、次の3つが重視されます。
要素 | 内容 |
一致 | コーチ自身が誠実であること |
無条件の肯定的関心 | クライアントを無条件に受け入れること |
共感的理解 | 相手の気持ちを深く理解しようとすること |
これらは、信頼関係を築き、クライアントの成長を促す土台になります。
また、クライアントが自分で成長する力を持っていると信じる姿勢も、コーチングにおいて重要です。
成人学習理論
成人学習理論は、大人の学び方に関する考え方です。
大人は、自分で学びたいという主体性を持ち、自分の経験を活かしながら学ぶ傾向があります。
また、実際の問題解決に役立つ学びを求める特徴があります。
コーチングでは、こうした大人の学習特性を尊重して関わることが大切です。
目標設定理論
目標設定理論は、目標を明確にすることが行動や成果に影響を与えるという考え方です。
コーチングでは、SMARTゴールのような考え方が、行動計画を立てる際によく使われます。
SMARTゴールとは、具体的で、測定可能で、達成可能で、関連性があり、期限が明確である目標のことです。
目標を明確にすることで、クライアントは何に向かって行動すればよいのかを理解しやすくなります。
ポジティブ心理学
ポジティブ心理学は、強み、幸福感、夢中になる状態であるフローなどに注目する考え方です。
コーチングでは、クライアントの問題や不足だけを見るのではなく、その人が持つ強みや可能性にも目を向けます。
より良く生きることや、パフォーマンスを高める支援にもつながる考え方です。
システム理論
システム理論は、クライアントを一人の個人としてだけでなく、その人を取り巻く環境の一部として捉える考え方です。
家族、会社、文化、チームなど、クライアントを取り巻く関係性も含めて理解しようとします。
特に、経営者向けのコーチングやチームコーチングでは、この視点が重要になります。
ORSCなどのシステムコーチングは、この考え方に基づいています。
リーダーシップ理論
リーダーシップ理論も、コーチングの実践に影響を与えています。
状況に合わせてリーダーシップのスタイルを変える考え方、ビジョンで人を導く考え方、メンバーに奉仕する考え方など、さまざまなリーダーシップの理論があります。
これらは、リーダー向けのコーチングや、組織の中でコーチングを活用する際に重要な視点となります。
【実践ポイント】理論を知ると、応用力がつく
コーチングは、単に型やモデルを覚えるだけではありません。
GROWモデルのような基本的な型を学ぶことは大切です。しかし、その背景にある心理学や学習の考え方を理解することで、なぜそのアプローチが有効なのかが分かり、より柔軟に応用できるようになります。
型を機械的に使うのではなく、理論に基づいて考えることが大切です。
たとえば、
・なぜ今この質問をするのか。 ・なぜこの関わり方が有効なのか。 ・今のクライアントに必要な視点は何か。
こうした視点を持つことで、より柔軟で深い関わりができるようになります。



