Section2 :コーチとしての土台、倫理と心構え

倫理と心構え

コーチとして活動するうえで土台となる倫理と心構えについて学びます。
コーチングでは、クライアントとの信頼関係が非常に重要です。クライアントは、セッションの中で自分の目標、課題、価値観、迷い、感情などを話すことがあります。そのため、コーチには高い倫理観と、クライアントを尊重する心構えが求められます。
コーチングのスキルは、信頼関係の上で機能します。傾聴、質問、承認、フィードバックなどの技術を学ぶ前に、コーチとしてどのような姿勢でクライアントと関わるのかを理解しておくことが大切です。
2.1 ICF倫理規定:プロとしての約束

コーチングで最も大切なもののひとつが、クライアントとの信頼関係です。その信頼関係の土台となるのが倫理です。
国際コーチング連盟(ICF)では、プロのコーチが守るべきルールとして倫理規定を定めています。ICFのメンバーや資格取得を目指す人は、この倫理規定を理解し、守る必要があります。
倫理規定は、コーチがクライアントに対して安全で誠実な関わりを行うための基準です。コーチングでは、クライアントの内面や人生上の重要なテーマを扱うことがあります。そのため、コーチは自分の言動がクライアントに与える影響を自覚し、責任ある姿勢で関わることが求められます。
ICF倫理規定は、主に次の4つの価値観に基づいています。
プロ意識
プロ意識とは、責任感、敬意、誠実さ、能力、卓越性を持ってコーチングに取り組む姿勢です。
コーチは、自分のコーチング内容、資格、経験について、事実と異なる説明をしてはいけません。誤解を招く表現や、過度な期待を抱かせる説明は、クライアントとの信頼関係を損なう可能性があります。
また、自分の個人的な問題がコーチングに影響しそうな場合には、適切に対処する必要があります。コーチングを教えたり、指導したりする場合にも、倫理規定を守ることが求められます。
協働
協働とは、他者と協力し、互いを尊重しながら関わる姿勢です。
コーチングは、コーチが一方的に教えるものではありません。コーチとクライアントが協力しながら進める対話のプロセスです。
また、必要に応じて他の専門家や関係者と連携することもあります。コーチは、自分だけですべてに対応しようとするのではなく、クライアントにとって適切な支援の形を考える必要があります。
人間性
人間性とは、思いやりを持ち、人に敬意を払う姿勢です。
コーチは、クライアントを評価したり、操作したりする存在ではありません。クライアントを一人の人間として尊重し、その人の考え、感情、価値観、背景を大切に扱います。
クライアントの可能性を信じ、安心して話せる関係を築くためには、人間性に基づいた関わりが欠かせません。
公平性
公平性とは、クライアントに対して公正に関わる姿勢です。
クライアントの文化、環境、価値観、立場、背景は一人ひとり異なります。コーチは、自分の価値観や経験だけで判断するのではなく、相手の違いを尊重して関わる必要があります。
公平性は、クライアントが安心して自分自身を表現するための前提となります。
倫理規定で扱われる主なポイント
ICF倫理規定では、プロとしての振る舞い、利益相反、クライアントとの関わり方、守秘義務、継続的な学習などが重要な項目として扱われています。また、ICFの資格試験においても、倫理規定の理解は必須とされています。
プロとしての振る舞い
コーチは、自分の資格、経験、コーチング内容について、正確に説明する必要があります。
他人の功績を自分のもののように示したり、実際以上に能力があるように見せたりしてはいけません。クライアントが適切に判断できるように、コーチは誠実な情報提供を行うことが求められます。
また、コーチングに関する記録を適切に保管し、管理することも重要です。
利益相反
利益相反とは、コーチとクライアントの間、または関係者の間で、利害がぶつかる可能性がある状態を指します。
コーチは、自分とクライアントの間に利益相反がないかを常に意識する必要があります。もし利益相反の可能性がある場合には、クライアントに正直に伝え、適切に対処します。
利益相反を曖昧にしたまま進めると、クライアントとの信頼関係を損なう可能性があります。
クライアントとの関わり方
コーチは、クライアントの秘密を守る必要があります。
また、コーチングの契約内容を明確にし、クライアントが契約を終了したいと希望した場合には、その意思を尊重します。
さらに、コーチングと他の支援方法との違いを明確にすることも重要です。コーチングは、コンサルティング、セラピー、カウンセリング、ティーチング、メンタリングとは異なります。
コーチは、専門家として答えを与える存在ではありません。また、心の治療を行う専門家でもありません。クライアントの状態によっては、医療、心理、法律、財務など、他の専門的な支援につなぐ必要がある場合もあります。
コーチが自分の役割と限界を理解していることは、クライアントを守ることにもつながります。
守秘義務
守秘義務とは、クライアントやスポンサーの情報を、本人の同意なく外部に漏らさないことです。
コーチングでは、クライアントの個人的な情報や内面的なテーマを扱うことがあります。そのため、守秘義務は信頼関係を築くうえで非常に重要です。
ただし、法律で求められる場合など、守秘義務には限界がある場合もあります。そのため、セッションを始める前に、どのような情報が守られ、どのような場合に例外があるのかを説明しておく必要があります。
学び続けること
プロのコーチは、継続的に学び、スキルを高め続ける責任があります。
コーチングの知識や技術は、一度学べば終わりではありません。実践を通じて自分の関わり方を振り返り、必要に応じて学び直すことが求められます。
倫理を守ることと、学び続けることは、プロとしての信頼性を支える重要な要素です。
【実践ポイント】倫理規定は信頼の証

コーチは、特別な国家資格がなくても名乗ることができる場合があります。
だからこそ、ICFのような信頼できる組織の倫理規定を理解し、それに基づいて活動することは重要です。
倫理規定を守ることは、クライアントに対して「安心して関われるコーチである」と示すための一つの基準になります。
2.2 コーチングマインド:こうありたいという心構え

コーチングマインドとは、コーチがクライアントと関わる際に大切にする基本姿勢のことです。
具体的には、常にオープンであること、好奇心を持つこと、柔軟であること、クライアントを中心に考えることが含まれます。
コーチングでは、クライアントが自分で考え、自分で決め、自分で行動することを尊重します。コーチは、クライアントの代わりに答えを決めるのではなく、クライアント自身が答えを見つけられるように支援します。
コーチングマインドには、次のような心構えが含まれます。
クライアントの自己決定を尊重する
コーチングでは、最終的に何を選び、どのように行動するかを決めるのはクライアント自身です。
コーチは、クライアントの代わりに判断したり、行動を決めたりしません。クライアントが自分で選択し、その選択に責任を持てるように支援します。
学び続け、自分のコーチングを振り返る
コーチは、自分自身の関わり方を継続的に振り返る必要があります。
自分の価値観を押し付けていないか。 クライアントの話を十分に聴いているか。 自分の感情や思い込みがセッションに影響していないか。
このような内省を通じて、コーチは自分のあり方とスキルを高めていきます。
文化や環境の影響を意識する
人は、それぞれ異なる文化、家庭環境、職場環境、社会的背景の中で生きています。
コーチは、自分とクライアントの違いを理解しようとする姿勢を持つ必要があります。自分にとって当然の考え方が、クライアントにとっても当然であるとは限りません。
相手の背景を尊重しながら関わることが求められます。
自分の気づきや直感をクライアントのために役立てる
セッション中、コーチはクライアントの言葉、表情、声の調子、沈黙などから、さまざまなことに気づくことがあります。
その気づきや直感は、クライアントの学びや気づきを促すために活用できます。
ただし、コーチの解釈を押し付けるのではなく、クライアントが自由に受け取れる形で扱うことが重要です。
自分の感情を整える
コーチ自身の感情は、セッションに影響を与えることがあります。
焦り、不安、緊張、評価したい気持ちなどが強い状態では、クライアントの話を十分に聴けなくなる可能性があります。
そのため、コーチは自分の感情を自覚し、整える力を身につける必要があります。
セッション前に準備をする
コーチは、セッション前に心と頭を整える必要があります。
前回の内容を確認すること、今日のセッションに集中できる状態をつくること、自分の判断や先入観を一度脇に置くことなどが、質の高い関わりにつながります。
必要なときには助けを求める
コーチは、すべてを一人で扱う存在ではありません。
クライアントに他の専門的な支援が必要な場合には、適切な専門家につなぐことが求められます。
また、コーチ自身が迷った場合には、メンターコーチ、スーパーバイザー、専門家などに相談することも重要です。
「わからない」状態でも落ち着いていられる
コーチングでは、すぐに答えが出ないことがあります。クライアントが沈黙し、考える時間が必要になることもあります。
その場でコーチが焦って言葉を足しすぎると、クライアントの内省を妨げる可能性があります。
コーチには、答えがすぐに見えない状態でも落ち着いて関わる姿勢が求められます。沈黙や考える時間を大切にすることも、コーチングマインドの一つです。
2.3 信頼と安心の場づくり

クライアントが安心して本音を話し、自分自身と向き合うためには、信頼と安全な場が必要です。
ここでいう安全な場とは、単に静かな場所という意味ではありません。クライアントが「ここでは否定されない」 「急かされない」 「秘密が守られる」 「自分の考えや感情を話してよい」と感じられる関係性のことです。
信頼は、コーチが倫理的に振る舞い、適切な心構えを持ち、傾聴や承認などのスキルを用いることで築かれます。
安全な場をつくるためには、次の要素が重要です。
尊敬の念を持つ
コーチは、クライアントを一人の人間として尊重します。
クライアントの考えや感情を、すぐに評価したり否定したりしません。相手の立場や背景を理解しようとする姿勢が、安心して話せる関係をつくります。
共感する
共感とは、クライアントの立場から、その人の経験を理解しようとする姿勢です。
コーチは、クライアントがどのように感じ、どのように状況を捉えているのかを理解しようとします。
共感的な関わりは、クライアントが安心して自分の内面を探索するための支えになります。
心から関心を示す
コーチは、クライアントに対して心から関心を持って関わる必要があります。
表面的に話を聞くのではなく、クライアントが大切にしていること、悩んでいること、目指していることに注意を向けます。
その姿勢が、クライアントの安心感につながります。
落ち着いた態度で関わる
コーチ自身の落ち着いた態度は、クライアントの安心感に影響します。
コーチが焦っていたり、不安定だったりすると、クライアントも落ち着いて話しにくくなります。
反対に、コーチが落ち着いた状態でその場にいることで、クライアントも安心して話しやすくなります。
このような状態は、コーチングにおけるプレゼンスとも関係しています。
合意形成を行う
コーチングを始める際には、何を扱うのか、どのように進めるのか、秘密はどのように守られるのか、お互いの役割は何かを確認する必要があります。
この合意形成が不十分なまま進めると、クライアントとの間で期待のずれが生じやすくなります。
信頼関係を築くためには、最初に必要な合意を明確にしておくことが重要です。
【実践ポイント】信頼は築き、守り続けるもの
信頼は、セッションの最初に一度つくれば終わりではありません。
コーチングを進める中で、信頼は常に築き続け、守り続ける必要があります。
コーチがクライアントの話を十分に聴いていなかったり、約束を守らなかったり、倫理的に問題のある行動をとったりすれば、信頼は崩れる可能性があります。
信頼が失われると、クライアントは安心して話すことが難しくなり、コーチングは成り立ちにくくなります。
コーチングの倫理、心構え、スキルは、すべてこの信頼という土台を支えるためにあります。



