Section3:コーチングのコアスキルを磨く

コーチングを実践するうえで必要となる基本的なスキルについて学びます。
コーチングでは、信頼関係や倫理的な姿勢を土台にしながら、傾聴、質問、承認、フィードバック、行動計画などのスキルを用いて、クライアントの気づきと行動を支援します。
コーチングでは、傾聴、質問、承認、フィードバック、行動計画などのスキルを、対話の流れに応じて組み合わせながら使います。
まずは、世界標準のスキルセットとして位置づけられているICFコアコンピテンシーについて確認していきます。

3.1 ICFコアコンピテンシー:世界標準のスキルセット
ICFコアコンピテンシーとは、効果的なコーチングを行うために必要なスキルや考え方をまとめたものです。
ICFの資格試験や認定トレーニングプログラムは、このコアコンピテンシーに基づいて作られています。そのため、ICFコアコンピテンシーは、世界中で認められているコーチングの基準の一つとして位置づけられています。
ICFコアコンピテンシーは、大きく4つのグループに分かれています。

A. 土台づくり
土台づくりでは、倫理的に行動することや、コーチとしてふさわしい心構えを確認します。
コーチングは、スキルだけで成り立つものではありません。クライアントと安全で信頼できる関係を築くためには、倫理とマインドセットが土台になります。
B. 関係性を一緒につくる
関係性を一緒につくる領域では、クライアントとの約束事を明確にすること、信頼と安心の場をつくること、その場に落ち着いて存在することが扱われます。
コーチングでは、コーチが一方的に場をつくるのではなく、クライアントと共に関係性を築いていきます。
C. 効果的なコミュニケーション
効果的なコミュニケーションでは、しっかり聴くことと、気づきを引き出すことが扱われます。
クライアントの言葉、感情、価値観、背景に注意を向けながら、対話を通じて新しい視点や気づきを促します。
D. 学びと成長を育む
学びと成長を育む領域では、クライアントが得た気づきを学びや行動につなげ、成長を促すことが扱われます。
コーチングは、理解だけで終わるものではありません。クライアントが自分の目標に向かって行動し、学びを深めていくことを支援します。
ICFコアコンピテンシーに含まれるスキルは、どれか一つが特別に重要というものではありません。それぞれが関連し合い、コーチング全体を支える要素になります。
また、コアコンピテンシーは実際のコーチング現場での研究に基づいて作られ、時代に合わせて見直されています。チームを対象としたコーチングには、チームコーチングのためのコンピテンシーもあります。
表:ICFコアコンピテンシーの概要
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カテゴリー | コンピテンシー |
A. 土台づくり | 1. 倫理的な行動をする |
2. コーチらしい心構えを持つ | |
B. 関係性を一緒につくる | 3. 約束事を決めて守る |
4. 信頼と安心の場をつくる | |
5. 落ち着いて、その場にいる(プレゼンス) | |
C. 効果的なコミュニケーション | 6. しっかり聴く(傾聴) |
7. 気づきを引き出す | |
D. 学びと成長を育む | 8. クライアントの成長を促す |
【実践ポイント】コアコンピテンシーはコーチの成長マップ
ICFコアコンピテンシーは、コーチとして成長するための地図のようなものです。
これから学ぶスキルが、世界標準のどの部分にあたるのかを意識することで、自分の成長を客観的に捉えやすくなります。
コーチングを学ぶ際には、個別のスキルだけを見るのではなく、それぞれのスキルがコアコンピテンシー全体の中でどのような役割を持つのかを確認することが大切です。
3.2 しっかり聴く:傾聴力
傾聴とは、ただ話を聞くことではありません。
相手の言葉、感情、そしてその奥にある本当の意味まで深く理解しようとすることです。

相手に意識を集中し、相手の視点に立って、言葉の背景にある思いや価値観にも注意を向けます。
コーチングにおける傾聴は、クライアントのために聴く姿勢です。
コーチが自分の意見を考えながら聞くのではなく、クライアントが何を感じ、何を大切にし、どのような世界を見ているのかを理解しようとします。
傾聴は、コーチングで最も基本となるスキルの一つです。
傾聴によって、クライアントとの信頼関係が築かれます。また、クライアントが今どのような状況にいるのかを理解し、的確な質問をするためにも欠かせません。
話を聴くこと自体が、相手を認めることにもつながります。
クライアントは、自分の話を丁寧に聴いてもらうことで、「自分の考えや感情は大切に扱われている」と感じやすくなります。
【実践ポイント】傾聴の具体的なやり方
傾聴を実践する際には、次のような点を意識します。
相手の話に集中し、途中で口を挟まない。
うなずき、目を見る、姿勢を正すといった態度で示す。
「はい」「そうなんですね」といった相槌を用いる。
相手の言ったことを繰り返す。
相手の話を要約する。
話の内容だけでなく、感情や価値観にも耳を澄ませる。
言葉になっていない思いにも注意を向ける。
表情、声のトーン、しぐさも観察する。
自分の意見や「こうあるべき」という考えを一度脇に置く。
「〜ということですか?」のように質問し、理解を確認する。
傾聴は、心理学者カール・ロジャーズの共感的理解とも深く関係しています。
共感的理解とは、相手の世界を相手の立場から理解しようとする姿勢です。コーチングにおいても、クライアントの視点から理解しようとすることが重要です。
3.3 パワフルな質問:質問力
コーチングにおける質問は、単に情報を集めるためのものではありません。
質問の目的は、クライアントの考えを深め、新しい視点や気づきを生み出し、次の行動につなげることです。

質問は、クライアントが自分自身の答えを見つけるための道具です。
コーチが答えを教えるのではなく、問いを通じてクライアントの内側にある考えや可能性を引き出します。
良い質問は、クライアントの視点を広げます。
これまで見えていなかった選択肢に気づいたり、自分の価値観を明確にしたり、次に取る行動を具体化したりする助けになります。
【実践ポイント】良い質問の特徴
良い質問には、次のような特徴があります。
「はい」「いいえ」で終わらない、開かれた質問である。
相手に考える余地を与える。
内省を促す。
未来や行動につながる。
決めつけや評価を含まない。
クライアントの状況や言葉に合わせて作られている。
答えを誘導しない。
特定の方向に持っていこうとしない。
質問力を高めるには、さまざまな種類の質問を学び、実践の中で使えるようにしていくことが大切です。
たとえば、次のような質問があります。
「具体的にどういうことですか?」
「もし〜だとしたら、どうなりますか?」
「まず何から始めますか?」
効果的な質問は、しっかりとした傾聴があってこそ生まれます。
相手の話を深く聴かずに質問をすると、的外れになったり、クライアントに違和感を与えたりすることがあります。傾聴によって相手を理解することで、適切なタイミングで、気づきを促す質問ができるようになります。
質問力を高めるには、練習が必要です。
最初のうちは、その場で良い質問を思いつくことが難しい場合もあります。そのため、質問の種類やパターンを学び、実際の対話の中で少しずつ使えるようにしていくことが大切です。
3.4 気づきを引き出す
気づきを引き出すとは、クライアントが自分自身で「あっ、そうか」と理解したり、新しい見方を得たりできるように支援することです。
コーチは、視点を変える質問、沈黙、たとえ話、観察したことのフィードバックなどを使いながら、クライアントの学びを支援します。
このプロセスでは、クライアントが自分自身や状況を、これまでとは違う視点で捉えられるように関わります。
気づきは、単なる問題解決にとどまりません。
クライアントが持っている信念、思い込み、価値観、感情など、より深い部分を探求することもあります。
そして、そこで得た気づきを、クライアントが目指す目標や理想の未来につなげていきます。
コーチの役割は、答えを与えることではありません。
クライアント自身が気づけるような場をつくることです。そのためには、コーチ自身が落ち着いてその場にいること、クライアントの言葉や反応に注意を向けること、必要に応じて直感や観察を活用することが大切です。
3.5 その他の必須スキル:承認・フィードバック・行動計画
コーチングでは、傾聴や質問に加えて、承認、フィードバック、行動計画、プレゼンスなどのスキルも重要です。
これらのスキルは、クライアントの気づきを深め、行動につなげ、成長を支えるために使われます。
承認する力
承認する力とは、クライアントの頑張り、進歩、強み、気持ちなどを、評価や判断をせずに、そのまま認めて伝えるスキルです。
承認は、単に褒めることとは異なります。
結果だけを見るのではなく、クライアントが目標に向かって取り組んでいるプロセスや努力にも注意を向けます。
たとえば、まだ目に見える成果が出ていない場合でも、クライアントが試行錯誤していること、前回よりも一歩進んでいること、自分の気持ちに向き合っていることなどを認めることができます。
承認によって、クライアントは「これでいいんだ」「自分にはできる」と感じやすくなります。
また、承認はコーチとの信頼関係を深めることにもつながります。
相手の名前を呼ぶことも、承認の気持ちを伝えるうえで効果的です。
フィードバックする力
フィードバックする力とは、コーチが観察したこと、感じたこと、あるいは気づいたことを、クライアントの目標達成に役立つ形で伝えるスキルです。
フィードバックは、建設的で、敬意を持って行う必要があります。
コーチの意見を押し付けるものではありません。クライアントを評価したり、正そうとしたりするためのものでもありません。
フィードバックを行う際には、できるだけ客観的な事実に焦点を当てます。
たとえば、クライアントの言葉の変化、表情、声のトーン、繰り返し出てくる表現などを扱うことがあります。
また、フィードバックを伝えるタイミングや、クライアントとの関係性を見極めることも重要です。
同じ内容であっても、信頼関係が十分に築かれていない段階で伝えると、クライアントが受け取りにくくなることがあります。
行動をデザインする力
行動をデザインする力とは、クライアントが得た気づきを、具体的な行動計画に落とし込むための支援です。
コーチングでは、気づきが生まれることが重要です。しかし、気づきだけで終わってしまうと、現実の変化にはつながりにくくなります。
そのため、クライアントがどのような行動を取るのかを具体化することが大切です。
行動計画を立てる際には、SMARTの考え方が役立ちます。
SMARTとは、目標や行動を「具体的・測定可能・達成可能・関連性がある・期限がある」形に整理する考え方です。
コーチは、クライアントが少し勇気を出して新しいことに挑戦できるように支援します。
ただし、その行動がクライアント本人の目標や「やりたい」という気持ちと合っているかを確認することが重要です。
コーチが一方的に行動を決めるのではなく、「〜してみるのはどうですか?」というように、提案や招待の形で関わることが多くあります。
クライアントに集中する力:プレゼンスの維持
プレゼンスとは、セッション中に完全にクライアントに意識を向け、オープンで、柔軟で、落ち着いて関わることです。
コーチは、自分の考えや感情にとらわれすぎず、クライアントの話に集中し続ける必要があります。
クライアントが沈黙しているとき、感情を言葉にしようとしている時、迷いながら話している時にも、コーチが落ち着いてその場にいることで、クライアントは安心して自分自身と向き合いやすくなります。
プレゼンスは、信頼と安心の場づくりにも深く関係しています。
【実践ポイント】スキルは組み合わせて使う

コーチングのスキルは、それぞれを別々に使うものではありません。
良い質問は、しっかり聴くことから生まれます。
効果的なフィードバックには、承認とプレゼンスによって築かれた信頼が必要です。
行動計画は、クライアントの気づきの後に続くものです。
熟練したコーチは、これらのスキルをクライアントの状況に合わせて、自然に組み合わせて使います。
個別のスキルを覚えるだけでなく、それぞれがどのようにつながっているのかを意識して学ぶことが大切です。



